「身体の中のコラーゲン」は体内で水分のつぎに多い成分で、全体重の1/15が「コラーゲン」であるといわれています。その種類は、I型、II型、III型…として分類され、現在では28種類が確認されています。肌にあることはよく知られていますが、骨・軟骨・腱をはじめ胃・腸・血管壁など、人間の身体を構成する様々な組織にも含まれていて、まさに私たちの健康と若々しさを保つために不可欠の大切な成分です。
「コラーゲン」は、“美容”や、“健康”といったキーワードを同時に連想するほど、私たちの生活になくてはならないものとして、世の中に広く知られています。では、私たちの生活にこれだけ密着している「コラーゲン」とは、そもそもどんなものなのでしょうか。単純に、化粧品、サプリメントで用いられる成分の一つにすぎないと思っていませんか?「コラーゲン」は、身体の中では、細胞同士を繋げるという大切な役割をしていて、これが無ければ、身体は60兆個の細胞に分かれてバラバラになってしまうといえるほど、重要なのです。ここでは、「コラーゲン」について、「身体の中」「食べ物」「化粧品成分」「サプリメント」「医薬・医療」の5つに分けて、ご説明していきます。
私たちの身体は60兆個という想像を超えた数の細胞からできています。体重60kgの人ならば、1kgあたりに約1兆個、たった1gあたりでも約10億個です。その小さな世界で「身体の中のコラーゲン」は、細胞の粒を一つひとつを繋げて臓器を形づくっているのです。そのおもな細胞には、皮膚に存在する「線維芽細胞」、軟骨に存在する「軟骨細胞」、骨を形成する「骨芽細胞」があります。「身体の中のコラーゲン」は、これらの細胞から分泌され(右図)、細胞と細胞のすき間を埋めるように存在する“細胞外マトリックス”のメイン成分として働いています。
肌は、皮膚表面から深部へ向かって、表皮(角層を含む)、真皮、皮下組織に分かれています。皮膚の厚さは表皮と真皮をあわせて、約2ミリで、そのうち表皮は0.2ミリ(角層は0.02ミリ)です。また真皮の約70%を占めるのが三重らせん構造の「Ⅰ型コラーゲン」です。線維状に重なり合い、肌のハリとうるおいを保っています。お肌の「コラーゲン」量は、20歳を過ぎた頃から、年齢とともに正常な「コラーゲン」が減少しつづけていきます。これは、年齢を重ねるとともに、作り出される「コラーゲン」が減り、またすでにある正常な「コラーゲン」も、糖化により形が異なり、つねに変化してしまうためです。
“シワ”や“たるみ”が気になるほど、欲しくなるのが肌の“ハリ”です。肌の“ハリ”は「コラーゲン」、とよくいわれますが、これには肌本来の役割である「身体を覆う袋」という働きが関係しています。肌は身体の中にある骨や筋肉などが外に出ないように覆っています。たとえば、体重50kgの人ならば、その体重と同じ50kgもの荷物を運べるほど頑丈な、伸縮自在の袋の働きをしているのです。ちょっとしたことで肌が破けたら、日常生活も普通にできません。その破けない理由こそ「コラーゲン」なのです。皮膚の中では、「コラーゲン」は、線維状になり、糸のように束になります。その糸が何重にも様々な方向を向いて重なり、1方向からの力で破けることを防いでいます。つまり、“ハリ”が無くなった肌とは、コラーゲンが減少している肌ともいえるのです。
骨にカルシウムがあるのはよく知られていますが、じつは「コラーゲン」も多く含まれています。カルシウムには、骨を硬くする役割があり、「コラーゲン」には、骨をしならせる役割があります。では、折れにくい骨とは“硬い骨”と“しなる骨”とどちらでしょうか?骨を人工的にカルシウムだけにすると“硬い”のですが、叩くと、砕けてしまいます。これに対し、「コラーゲン」だけにした骨は、柔軟性があり、しなるため、叩いても折れません。つまり、丈夫な骨のために、「コラーゲン」が重要な働きをしているのです。
身体の中で、骨と筋肉を繋ぐ役割をしている腱も、「コラーゲン」が80%を占めています。代表的なアキレス腱は、ふくらはぎの筋肉とかかとの骨を繋ぐ、身体の中でもっとも大きな腱です。ふくらはぎの筋肉を収縮させると、アキレス腱が引っ張られます(つま先立ちの形)。その時、全体重を持ち上げるほどの力に耐えています。走っている時には、その数倍もの力に耐えているといえるでしょう。この歩いたり、走ったりという日常生活の動作も、「コラーゲン」が支えています。
髪は毛根で細胞分裂がおこることで成長します。毛根の根となるふくらんだ部分が毛球で、その先端を毛乳頭といいます。この部分は髪を作り出す毛母細胞や、髪を黒くする作用のあるメラニン細胞などが集まる場所です。この毛根があるのは、「コラーゲン」が7割を占める真皮です。毛根の成長に必要な栄養は毛細血管の壁から「コラーゲン」の層を通って、毛乳頭から吸収されます。すなわち、髪の栄養も「コラーゲン」が支えていることになります。
爪は、皮膚の構造が硬く変化したものです。爪が伸びるのは、肌のターンオーバーと同様に、爪の根元で爪母細胞が分裂を繰り返し、爪甲(一般的に爪と呼ばれる部分)をつくって押し出しているからです。爪も皮膚と同じ構造のため、真皮で「コラーゲン」がその働きを支えているといえます。爪は、季節や生活、健康状態や年齢によってその様相を変え、その変化を見やすいため、“ 健康のバロメーター”とも呼ばれているので、日頃から、爪の変化に目を向けることも大切です。
「コラーゲン」はたんぱく質の一種であり、肉や魚などといったたんぱく質系食品に、多く含まれています(皮や腱・骨に多い)。しかし「コラーゲン」は、生の状態では摂取しにくく、煮込み料理などにして溶かしだすことで効率よく摂取することが可能となります。「コラーゲン」を多く含む食材には、鶏の手羽先、牛すじ肉、軟骨、鶏の皮、豚足、魚のアラなどがあります。
化粧品に使われる「コラーゲン」は、おもに“加水分解コラーゲン”と、“水溶性コラーゲン”とに分けられます。“加水分解コラーゲン”は、その名称から想像できるように、分解した「コラーゲン」です。分解の方法により、分子の大きさが異なります。小さいものは、分子量500以下で、「コラーゲン」特有の分子配列を保ったものもあります。“水溶性コラーゲン”とは、「コラーゲン」を分解せずに、「コラーゲン」本来の構造を維持した状態で抽出された「コラーゲン」です。「コラーゲン」は、分解方法や、分子量の大きさなどによって、保湿力が異なります。化粧品に使われる「コラーゲン」は、肌表面から、角質層をうるおし、健やかな肌へと導きます。
サプリメントにて用いられるコラーゲンでよく聞く原料由来には、「動物性コラーゲン」、「海洋性コラーゲン」、「植物性コラーゲン」などがあります
「動物性コラーゲン」は、ウシ・ブタなどを原料としたもので、「コラーゲン」の構造も人に近い構造をしています。「海洋性コラーゲン」と呼ばれるものは、主に魚由来です。「植物性コラーゲン」と呼ばれるものがありますが、「コラーゲン」は動物にしか存在しないので、実は、「植物性コラーゲン」は「コラーゲン」ではありません。
長い間、「コラーゲン」は、摂取しても分解されて、アミノ酸として吸収されるといわれてきました。しかし、最近の研究で、分解されてもアミノ酸だけでなく、「コラーゲンペプチド」の状態で吸収されることがわかってきました。また、「コラーゲン」特有のアミノ酸もあることから、細胞が「コラーゲン」をはじめとするタンパク質を生みだす材料として、血管を通して全身に送られることがわかっています。
「コラーゲン」は、もともと「やけどの被覆剤」「手術用の糸」など、医療の分野で研究・開発が進められ、活用されていました。現在でも「薬のカプセル」や「注射薬安定剤」「酵素安定剤」「栄養補給剤」などで利用されており、近年「ES細胞」「iPS細胞」(※)などを用いた研究が盛んな「再生医療」分野の研究においても、「コラーゲン」は、不可欠なものとして用いられています。
- ※「ES細胞」「iPS細胞」とは
- 「ES細胞」は人体を形づくるあらゆる細胞に変わることのできるおおもとの細胞。また、自らを分裂させて増やすことができる特性を持つ。これに対し、「iPS細胞」とは、体細胞(主に線維芽細胞)へ数種類の遺伝子を導入することにより、ES細胞に似た機能を人工的に持たせた細胞のこと。
美容や健康の意味でとらえられている「コラーゲン」ですが、じつは、人に限らず、生物の進化に大きく関わっていました。人の歴史は、150~500万年ほどといわれていますが、「コラーゲン」の歴史は、6億~8億年前と考えられています。その頃の地球は全球凍結という超低温の時期が終わり、急激な気候変動の影響で酸素が大量に作られることで、それまでの地球の住人だった単細胞生物が「コラーゲン」を作り出すことができるようになりました。この「コラーゲン」こそが、細胞同士の接着に利用されることで多細胞化を進ませ、生物が進化するきっかけになったと考えられています。